こざっぱり!

自分を変えようと奮闘中の闘病中R50独身女。ひっそり楽しくこざっぱり暮らしたい。体調変動が激しいので、投稿には波もあるし予約投稿も多いです。反応のタイムラグはごめんなさい。

「あなたのことはそれほど」が面白い。

TBSで火曜日にやっているドラマ「あなたのことはそれほど」が面白くて毎回楽しみにしています。

 

結婚願望が強い波瑠さん演じるヒロインが、東出さん演じる結婚向きの無難に良い男と結婚したのち、学生の頃一番好きだった男(既婚・子持ち)と再会して、肉体関係をもつお話。

 

波瑠さんが、とても華奢で、しかも、ものすごーく透き通った肌をしているので、いわゆる不倫を扱うドラマにありがちな、肉感的ないやらしさがありません。

他方で、彼女は、どこか状況を突き放してみているところがあって、ものすごく冷めた瞳をしているので、悲劇のヒロインぶりっこを微塵も感じさず、ドラマティックにキャッチーに話が進む割には、妙に淡々とスッキリとした印象があります。そこがまず面白い。

 

このドラマ、「夫を裏切って不倫する悪女」「妻の不倫を知って切れる夫のキモ怖さ」「ドロドロの不倫」「泥沼の人間関係」と言ったお昼のワイドショー的な要素が多々あるのに、それを取り扱っているにしては、不思議なくらい、醒めたタッチを感じるんです。

なんというか、愛欲に溺れた…というよりは、登場人物それぞれが、自分の欲望を非常に冷静に把握し、欲望に対して合理的に行動しているなという印象なんですね。

 

そう、この物語は、たとえヒロインが不倫しようと、ヒロインの夫が切れてワインをぶちまけようと、基本的に、登場人物は、それぞれがそれぞれに、自分の欲望に対して理性的とも言えるくらい合理的な行動を積み重ねている印象があります。

 

まず、最初の設定が面白い。

しょっぱなから「2番目に好きな人と結婚するとうまくいく」ですよ。

このドラマの主人公、学生時代に占い師に2番目に好きな人と結婚するとうまくいく、といわれて、実際2番目に好きな人と結婚するんです。

 

よくあるステレオタイプの少女漫画、恋愛漫画に置ける絶対真理は、「心の底から世界で一番好きな人と結ばれることこそ至高!正しい恋愛!正しい結婚!」というものです。

結婚の目的に経済的安定なんていうものを勘定に入れ、「一番好き」とまでは言えない人と結婚しようとするものならば、打算的だと総すかんを喰らうわけです。

そこで、そういう恋愛教を素直に信じる真面目な女子たちは、赤い糸で繋がれた唯一無二のパートナーを探し続けて生きるわけです。

ある年齢までは。

 

そうある年齢までは、です。

世界中にこれだけたくさんの人がいる中、都合の良い相手との出会いを求めて遊び歩くこともせず、真面目に狭い人間関係の中で生きている人が、世間が結婚適齢期と認める年齢までに、「心の底から世界で一番好きな人」と、「結婚するのにちょうど良いタイミング」で出会っている可能性って、本当のところ、どれくらいのものなのでしょうか。思うように出会えない人たちがそれなりの数がいたっておかしくありません。

にもかかわらず、一定年齢に達しても、子供の頃に教わった「正しい恋愛」を一生懸命実現しようとする真面目な女子たちに、世間は突然手のひら返しをするのです。

「いい歳してなぜ結婚しない」「適齢期がきているのに結婚しないのは負け犬」「いつまで夢見がちなことを言っているんだ」「結婚は生活だ。ちゃんと現実をみろ」云々。

 

 

そういう意味では、このドラマのヒロインは、そういう結婚という宗教を強制する世間からも、文句のつけようのない「正しい」結婚をしたはずなのです。適齢期にちょうどタイミングよく出会った結婚向きの男に望まれての結婚ですもんね。

ケチのつけようがない正しさじゃありませんか。

 

ところが、彼女は「一番好きな男とする恋愛だけが正しい」という恋愛という名の宗教の信者としても、ずっと信心深い優等生でした。だからこそ主人公は、一番好きな男とばったり再会し、肉体関係をもつに至るわけです。

恋愛教においては、文句を言われる必要のない正しい行為。なのに世間は突然手のひら返しをして、それを「不倫」と非難するのです。

 

だけどちょっと待って。

「一番好きな男とする恋愛だけが正しい」と刷り込んできたのは、「2番目に好きな男と結婚しろ」という圧力をかけてきた世間でもあるのです。

主人公は、二つの矛盾する宗教を押し付けられつつも、それを裏切ることなくちゃんと信心して、その両方を忠実に守って実行した、ある意味、とても素直で聞き分けの良い子なのです。

エゴイスティックではあるけれど、自分の気持ちに対して嘘やごまかしがない主人公だからこそ、そこの矛盾がストレートに表出しただけなのです(そういえば、恋愛教には「自分の気持ちに嘘をつくのは悪」みたいな教義もあったりしますね)。

それなのに両方を忠実に実行した主人公は突如「不倫する悪女」と責めるのは、卑怯というものではないでしょうか。

むしろおかしいのは、恋愛教と結婚教という矛盾した両方の宗教を押し付けてきた世間ってもんじゃないんでしょうか。

さらには皮肉なことに、こんなにも信仰深く、忠実に信仰を実践したはずなのに、「一番好きな男との恋愛」も「二番目に好きな男との結婚」も、少なくとも今のところは、どちらも彼女を心から満足させず、トラブルばかりを呼び込み、親友との友人関係にヒビを入れ、彼女の社会的立場を危うくするばかりなのです。

なんてご利益のない宗教だ。主人公は言われた通り、真面目に両方ちゃんと実行したのにね。

 

他方で、切れた演技が話題の東出さん演じる主人公の夫も、この強固な恋愛&結婚神話の、信心深くて優等生な信者です。

運命を感じた相手と結ばれるという意味では恋愛教の教義に忠実に従い、適齢期でちゃんと結婚し、結婚したからにはその相手と、「永遠に愛し合い」「永遠に一緒に」いようとします。

なのに、彼にも約束されたはずのご利益(幸せ)はどうも訪れてない模様。

彼自身は忠実な信者ゆえに、訪れてないことさえ認めず、現状は幸せだと思い込もうとしていますけどね。

「一番好きな人と結ばれ、正しい結婚をし、永遠に愛し合って一生一緒にいよう。」

うん、世間で流布されている正しい恋愛観&結婚観以外の何者でもないですね。

完璧に正しい。どこも狂ったところはありません。だから彼は正しくその通りに行動します。自分で選んだ一番好きな人(ぶっちゃけ多分それはヒロインでなくてもよかったんだと思うし、実際あんまりヒロインと向き合っていないような描写があります)との正しい結婚だから、妻がちょっと道を謝っても切り捨てず、離婚なんてせずに一生一緒にいようとします。ちょっとヒステリックな行動(ものを投げたりとか)もしますが、基本的に、彼は彼の宗教に基づいて、とても合理的に行動しています。

 

けれど、そんな彼は、視聴者から、狂ってる、コワイと言われるわけです。酷い。

愛している妻を寝取られたことに対して、嫉妬を超えた狂気を感じさせるのは、実際そこには、嫉妬だけではなくて、狂気があるからこそなんだと思います。

だって、「一番好きな人と結ばれる」だけが正しいわけじゃないと気がつけば、そこらに素敵な女の子なんて山ほどいるわけですし、「一度結婚したからにはその人と永遠に愛し合い一緒にいなければならない」なんて思わなかったら、何も今の妻一人に執着する必要もなくなるんだから。そして実際、狂気を感じさせない「一見」常識的な彼の周りの人(ここも「一見」なんですけどね。)をはじめとする、彼に恋愛教&結婚教を押し付けてきたはずの「世間」は、妻の不倫という状況に対して、手のひらを返したように離婚をすすめるわけです。

正しいはずの宗教を信じ、その宗教が正しいとする通りに合理的に行動した結果、狂気が生じちゃうのであれば、それはもはや信じた宗教自体に、不合理が、狂気が内包されているんじゃないでしょうか。 

ねえ、その恋愛教、結婚教、本当に欺瞞や矛盾のない、信頼しうる宗教かしら?

と、みていて思わざるを得ないわけです。 

 

主人公夫婦だけでなく、彼女の不倫相手の夫婦も、その夫婦と同じマンションのちょいDV気味の夫婦も、ちゃんと結婚したという意味では、結婚教の優秀な信者なわけですが、それぞれの結婚生活に、それぞれなりの欺瞞や諦念や打算や切実さが忍び込んでいます。(もちろんそれぞれなりの幸せもあります。子供とか。)

ただ、「好きな人と結ばれれば一生ハッピー」という恋愛教、「結婚は是」という結婚教の、いずれも、その信者たちにあまりご利益がないわけです。

また、よく「不倫のせいで家庭が壊れた」みたいな言いかたをしますが、このドラマは恋愛教にしたがって不倫しても幸せにならなさそうなことを描く一方で、結婚教が不倫を悪とすることで守ろうとする、結婚して持った家庭の幸せについても、恋愛教がキラキラと描くような、本当に掛け値なく欺瞞や打算のないものなのか、というところにさらっとクエスチョンマークをつけているわけです。

さらにいえば、結婚教からは、賢く正しいとお墨付きがもらえそうな、「世間の声」を代弁しているように見える、正義感の強い主人公の親友は皮肉なことに独身です。

さらにさらに、一見飄々と気軽な生活をして見える、主人公の雇用主は離婚経験豊富だし、同じく割り切って生きているように見える主人公の母も女手一つで子供を育てている様子から、結婚教が褒めるような「永遠の結婚」像からかけ離れたところにいることがわかります。

 

恋愛至上主義の立場から見ても、結婚至上主義の立場から見ても、なんとも言い難い現実が現実としてあることを、さらっと非常に冷めた視点で描いているわけです。

 

もちろん、こう言った、メジャーな恋愛教、結婚教に対するアンチテーゼの物語自体は今までだって別になかったわけじゃありません。

ただこのドラマの面白いところは、そう言った、恋愛教、結婚教に対する「話が違うんじゃない?」「不倫だの何だのいう前に、そもそも恋愛教も結婚教も、おかしくない?」といったざわつきを、観る側にさらっと与えつつも、でも枠としては従来型の、恋愛ドラマ、結婚ドラマ、不倫ドラマの中にストンとはまっていて、その主張をそれほど突出させていないところ。

アンチになるほど肩肘張っていないというか、もっと平熱な感じなんですよね。みてる側の心をそこはかとなくざわつかせつつも、別にそこを強く主張したって訳でもなさそうというか。それくらい淡々とそのあたりを描いています。

なので、これから、どのようにこの物語を展開させ、最終的にどのように話を着地させるのか。今からものすごく楽しみです。

 

原作者のいくえみ綾さんって、私が学生の頃、すでに恋愛至上主義少女漫画の総本山(と私が勝手に思い込んでいた)マーガレットコミックスの、看板漫画家でいらっしゃった方なんです。

その後、大人向けの作品を作られるようになってからも、「あ、そこ踏み込むんだ」というようなことをさらっと触れても、最終的にはちゃんとマーガレットコミックスっぽい落ち着きどころに着地させていた印象があるので、そういう意味でもこの作品は、このドラマは、最終話をどう着地させるのかな、と興味津々。

 

また、恋愛教の、もっともピュアで、正直で、行動力があって、ごまかしゼロの信者を描いた作品だと思っているのが、安野モヨコさんの「ハッピー・マニア」だったりするのですが、そちらが一応の最終回?を迎えた上で、約20年ぶりに読み切り続編がでるとのことなので、ぜひ合わせて読みたいなあとも思っています。

 

それにしても、ここ1年、重版出来!、逃げ恥、カルテット(奇しくも従来の恋愛教、結婚教とは一味違う人間模様を描いた作品ばっかりですね)と、TBSの火曜日ドラマにはワクワクさせられっぱなし。

今までテレビドラマは食わず嫌いだったのですが、勿体無いことしたなあと反省しきりです。